『  この一点 ― (2) ―  』

 

 

 

    ザザ ザ ・・・?  タタタ ・・・ タ ・・・・

 

ジョーは辺りをきょろきょろしつつ 街を歩いてゆく。

もう すっかり慣れた (はずの)この街 ・・・ 

大通りだけじゃなく 路地もほぼわかったつもりでいたけれど。

いつもとは全然ちがう目的で眺めると ― 知らない街 みたいだった。

 

「 う〜〜〜ん ・・・?  そういうトコって どこにあるのかなあ 

 表通り にはないよなあ  でも 裏通りに あるか?? 」

彼は 首を少々ひねりつつ 歩く。

 

      スタジオ 探しているの。 レッスンしたいのよ

 

思い返してみれば 彼女は何回も言っていたのだ。

「 ・・・ ふ〜〜ん って 聞き流してたんだ ぼく。

 自分にはわからない世界だから ・・・って。

 ― なあ ジョー。  お前 冷たいヤツだなあ! 」

最近 < 彼女 > の存在は 彼の中でどんどん大きくなってきている。

「 ・・・ こ〜んなに 可愛いヒト だったんだ 〜〜

 え こんなオンナノコ、初めてだよ ・・・ う〜〜〜 抱きしめたい〜〜 」

 ― と 初恋中坊のごとく 胸きゅん きゅん ・・・ な状態なのだ。

 

その彼女が!  何回も ちょっと不安そうに呟いていたことを

彼はぼ〜〜〜っと聞き流していたのだ!

 

     ・・・ ったく〜〜〜 !

     とんだヌケサクだよ ぼく は!!!

 

     こんなんじゃ スルー されちゃうぜ?

 

     ・・・って告るなんて むりむ〜〜りだけど★

 

「 とにかく!  彼女の望みを叶えなくちゃ!

 うん とりあえず モトマチ で探す!  あそこなら詳しいし 」

 

 ― と バイト休日、まだお昼前に 早起きして!

彼は勇んでこの街にやってきたのだ  が。

 

 

   タタタタ ・・・・  ズズズ −−−  ゴソゴソ

 

目標もなくめったやたらと歩き回っても ― 見つかるはずは ないのだ。

 

「 う〜〜〜ん ・・・・?

 スタジオ って。 音楽関係のしか 知らないからなあ〜

 あ。  でもさ そこで 踊る わけ?

 でも 自習したいんじゃないよなあ

 ・・・ あ 確か バレエ・カンパニー って言ってたっけ 」

 

彼はついに遊歩道のベンチに座りこみ

得意のスマホを ちゃっちゃと活用し情報を集め始めた。

 

「 へえ  ダンス・ショップ?  え この街にもこんなん あったんだ? 

 これは〜〜  あ あそこじゃん〜〜  よおし 」

 

ジョーは すぐ先にみえるなんだか ゴシック・ロマン みたいな店舗に

一歩 一歩! 近寄っていった。

ダンス・ショップ ―  まったく無縁の世界のオトコノコ としては

ちょっとばかり入りにくい ・・・ 気もしていた。

「 ・・・・? 」

店の前をそれとな〜〜く 行きつ戻りつして覗いてみれば 

 

     お??  オトコ いるじゃん?

 

     あ〜〜 そっか そっち系のヒト達 いるもんなあ

     ・・・ へえ なんかかっこいいなあ

     すっきりスタイル いいじゃん??

 

      ―  ぼく  ダサダサ かも★

 

     ・・・ う〜〜〜〜 でも フランが 

     フランの笑顔 みたいし ・・・

 

     あ あ あとは!!  ゆうき だけだっ!!

 

            ダッ。  

 

 

ジョーはキャップを深く被ると ダンス・ショップ の

中に足を踏みいれた。

 

      ♪♪  ♪♪〜〜〜〜  ♪♪♪

 

店内には 軽快な でも スーパーなんかとは違う音楽が

流れている。

 

      ・・・?  ふんふん ふ〜〜〜ん・・・

      あ  あれ ・・・

 

な〜んか自然に足が動くみたいな気分になってきた。

 

「 ・・・ っと ここはシューズとかウェア の店か

 あ〜〜 オトコいっぱいいるじゃん?  こっちにも 

なんか安心して ジョーはうろうろ店内を歩きまわる。

「 買い物ってか ・・・ なんか 情報、ないかなあ

 あ。  み〜〜〜っけ! 」 

シューズ売り場 ( と 思われる。  試し履きし真剣に

選んでいる男子が そこここにいた ) の隅に パンフのコーナーがあった。

 

「 あ これこれ! こ〜いうの、探してたんだ〜〜〜

 ・・・ う〜〜ん ? よくわかんないから  全部もってこ 

 

  ガサリ。  ジョーはパンフを山ほど持って 意気揚々?店を出た。

 

 

「 ただいまで〜す   ・・・ ん? 」

 

勢いよく玄関のドアを開けたのだが いつもの笑顔が迎えてはくれなかった。

「 ・・・ あれえ どこか出掛けてるのかなあ 」

ちょっとがっかり もそもそスニーカーを脱いでいると

 

「 おお ジョーかい お帰り 」

博士が 迎えてくれた。

「 あ ただいまです〜〜  ・・・ あれ 博士? 

 ・・・ フランは留守ですか 」

「 おお 下の商店街まで買い物に行ったぞ 」

「 え〜〜  言ってくれれば ぼく、買い出しに行ったのに〜〜

 ・・・ で それで博士  料理 ですか 」

「 うむ   たまには ワシがランチを作ろう と思ってな 」

「 あ〜〜  それで 」

 

ギルモア博士は 割烹着を着ていた ・・・ 案外よく似合っているが。

 

「 ジョー ちょうどいいタイミングで帰ってきたなあ〜〜

 ホット・サンド を作っているのだが ・・・

 キャベツの千切りを手伝っておくれ 」

「 え。 ―  あ〜〜 百切り くらいなら ・・・ 」

「 よいよい  頼む〜〜 」

「 了解っす!  今 手 洗ってきます〜〜 」

 

 

       とん  たんたん た ん  たん ・・・・

 

まな板がなんだか躊躇いがちな音をたてている。

「 ・・・・ あのう〜〜  このキャベツ ぜんぶ刻むのですか 

「 うん?  おう 頼む。  キャベツた〜〜っぷりの

 ころっけ・さんど を作ろうと思ってなあ 」

「  こ ころっけ さんど??? 」

「 左様。 コズミ君の御推薦でなあ 〜  しっかり作り方を

 伝授してもらってきたぞ〜〜 

「 ・・・ え これからコロッケ 作るんですか?? 

「 いや。  それは フランソワ―ズが買ってくる。 」

「 あ そっか。  あ! きっとね、商店街の肉屋さんで

 買ってきますよ、 コロッケ(^^♪ 」

「 ほう?  知っているのかい 

「 えへへ ・・・ あそこの肉屋の、美味いんです〜〜〜

 この前 ぼく、彼女に教えたんです♪ 

「 ああ それでかな。  ころっけ・さんど が作りたい と

 これはフランソワーズのリクエストでなあ  

「 わ〜〜〜 そうなんですか! おっし!

 それじゃ キャベツの千切り〜〜〜 たくさん作ります!

 パンにね キャベツとコロッケ、挟んで ソース どば〜〜〜〜っと

 かけて  ・・・ ウマいっすよ〜〜 」

「 ほう それは楽しみじゃな 」

「 でしょ? あと なんのサンドイッチですか 」

「 うむ ワシは あの卵サンド が好きでのう ・・・

 卵は茹でたから これから  」

「 はい!!  任せてください!!!

 カラシ・マヨネーズ で めっちゃウマくなります ! 」

「 おう 頼むぞ   それじゃ ワシは冷たいトマトサラダでも

 作るか  バジルがあるといいのだがなあ 

「 ばじる?   あ 博士〜〜 大葉だあるから あれ使いましょう 」

「 おおば ? 」

「 ハイ シソの葉っぱっす。 ま〜 二ホンのバジル かな〜〜 

「 ジョー  なかなか詳しいの 」

「 えへ ・・・ バイト先のコンビニで 覚えました (^^

 あ 博士〜〜 美味しいコーヒー、 お願いします ! 」

「 おう それは自信をもってひきうけるぞ 」

「 わあ〜い  ランチ たのしみ〜〜〜♪ 

 あ ぼくもエプロン、つけなくちゃ ・・・ 

 えへへ フラン〜〜 きみの、借りるね〜〜 」

 

   トントントン  こぽこぽこぽ・・・・

 

キッチンの中は 温かい音でいっぱいになってきた。

 

「 ただいま 帰りましたぁ〜〜 」

 

玄関で明るい声がひびく。

「 あ!  フラン〜〜〜〜  お帰りっ !! 

ジョーは ゆで卵を潰していたボウルを抱えたまま 玄関に

飛び出していった。

「 ・・・ あ〜 ・・・ 水滴がこぼれておるのに ・・・

 ま 仕方あるまい ナントカは盲目 というからなあ 

博士はぶつぶつ言いつつ、モップで床を拭き始めた。

 

玄関では じょー という名の茶色毛の仔犬が ハナを鳴らし

この家の女主人に すり寄っていた!

 

「 フラン !  お帰り〜〜  ねえ 買い物ならぼくに言ってね 

 メモ、残しといてくれれば 即 行くし 」

「 ジョー ・・・ ありがとう〜〜  嬉しいわ 

 でもね 今日は自分で買ってきたかったのよ  」

「 あ そうなんだ〜〜  あの 肉屋のコロッケ? 」

「 そうよ  ふふふ  お肉屋さんね あげたて をくださったの!

 ほら〜〜 まだ熱いわ〜〜 

彼女は両手で抱えてきた ちょっと油染みたつつみを持ち上げた。

「 あ〜〜  あの店のコロッケだあ〜〜 へへへ いい匂い〜〜 」

「 ね!  わたしが見てる前でね 大きなお鍋?で揚げてたのよ

 すご〜〜く 熱くていい匂い・・・ 

「 でしょ? でしょ〜〜 そんでもってものすご〜〜くウマイんだよ 」

ジョーは そお〜〜っとその袋を受け取った。

「 えへへ〜〜  じんわ〜〜りこの熱がいいなあ 」

「 この匂いなら 絶対よ〜〜〜

 で ね。 匂いですぐわかったんだけど  うふふふ♪ 」

フランソワーズは花が開いたみたいに 笑った。

「 ( うわ かわい(^^♪ ) ・・・ え なに? 」

「 うふふ  ころっけ って クロケットのことだったのね〜〜 

「 くろ  けっ と ?? 」

「 そう。 croquette。  わたしの国もちゃ〜んとあります♪

 肉屋さんでは売ってなかったけど・・・ 」

「 あ そうなんだ??  くろけっ と ・・・ かあ

 じゃあ この味、 知ってるんだ? 」

「 う〜〜ん 同じかどうか わからないけど ・・・ 

 こんなに大きくはなかったと思うのね クリーム系のソースでまとめてあるの。」

「 へえ〜〜  あ クリーム・コロッケ と似てるのかな?

 中身は なに? 

「 野菜とかお肉とか細かく刻んであったと思うわ。

 でもね 香が似てるから 味も きっと似てるわよ 」

「 そっか〜〜   あ さっそくサンドイッチにするね!

 えっへん フラン 〜〜  ランチはね 博士とぼくとで作りました。

 きみは 手を洗って着替えておいでよ 」

「 まあ ありがとう〜〜 うれしいわあ〜〜

 ランチ 楽しみ  うふふふ  ・・・ 

 博士〜〜 ありがとうございます〜〜〜 」

 

 

さて その日のランチ・タイムは もう盛り上がりまくり☆

ジョーのコロッケ・サンドは大絶賛を頂戴した。

「 うむ〜〜 確かにこれは 美味であるなあ〜  」

「 ほんとに〜〜 おいし〜〜 これが二ホンのcroquette なのね〜 」

「 えへへ ・・・ キャベツとソースがめちゃ合ってるよね!

 あ フランスのコロッケもこんな味? 」

「 ちょっと違うかも ・・・ ポテトはこんなに入ってないし

 形もね もう少し小さかったかも 

「 そうなんだ〜〜  」

「 でもね ポテト ほくほく〜〜 で美味しい!

 ねえ これ。 アルベルト きっとめちゃくちゃ好きだと思うわ〜〜

 あ〜 キャベツも甘くて・・・ ソースとめちゃ合ってて

 あ〜〜 もう全部食べちゃったわ 」

「 ジョー 卵サンド もウマイぞ  カラシ・マヨネーズが効いてるな 」

「 わ〜〜 ありがとうございます〜〜  」

「 ん〜〜〜  おいしい〜〜〜  ああ 食べ過ぎてしまうわ

 リキシさん達みたいになっちゃう〜〜 

フランソワーズは でも にこにこだ。

ジョーも こっそり・・・ お腹をさすってみた。

サンドイッチは 順調に三人のお腹に消えてゆく。

 

    うまあ〜〜〜   おいし♪    うむうむ これはよいなあ

 

香たかい珈琲も どんどん減ってゆく。

 

    あの〜〜 砂糖 ある?  はい これ。 ミルクもでしょ

    うん ありがとう〜   ああ おいし〜〜

 

    博士 ブランディ、入れます?  おお いいなあ

 

食べたり飲んだり ・・・ がやっと落ち着いてきた頃

「 あ!  そろそろ時間じゃない?  」 

フランソワーズが鳩時計を見上げて 声を上げた。

「 ??  なんの? 」

「 ほら TVよ! あの〜〜 スモウ中継 ・・・ 

「 え ・・・ 今日 あったっけか・・・ 」

ジョーは画面から番組表をチェックした。

「 まだみたいだよ 大丈夫。  4時くらいから 

「 あ そうなの よかった〜〜〜 楽しみにしてるの。

 ねえ 博士! スモウのこと!  伺ってもいいですか 」

「 あいや〜 ワシもコズミ君からの受け売りばかりだぞ? 」

「 いいんです なにしろ 初心者 ですから〜〜 」

「 ぼくだってさ。  あ そうだ そうだ

 食後に ちょっと検索してみようか 録画とかあるよ きっと 」

「 それはいい。 ワシももっともっと知りたいからなあ

 そしてな  次の <場所> では コズミ君を指南役に 

 我々も大相撲見物 と 国技館へ出掛けようではないか 

「 わあ 〜〜〜〜 」

ワカモノ達は歓声を上げた。

「 すご〜〜い!  間近にリキシが見られるのね〜〜

 ・・・ あ でも ジョー ・・・ 興味 ない ? 」

「 え そんなコト ないよ。  今まで関心がなかった っていうか〜

 二ホンのワカモノの多くは こんな感じだよ 

「 そうなの??  あの ・・・ 一緒に行ってくれる? 」

「 もっちろ〜〜〜ん!   あ そうだ そうだ

 ちょっとネットで探してみるね スモウの動画 」

「 え 嬉しい〜〜〜  その間にランチの後片付け、やるわ。 」

「 の〜 の〜〜 ! 後片付けは 食洗機 に頼むさ。

 ね 一緒に検索 しようよ〜〜 」

「 わ ♪  いいの??  」

「 二人で検索すれば いろいろ気付くさ  

 フランはPCの方が得意だろ? ぼくは スマホで 」

「 了解〜〜 」

 

   カチ カチ カチ ・・・  ススス キューー

 

二人で検索しまくった結果 ―

昭和時代のかなりふる〜〜いモノ から 平成の名勝負 やら

すでに引退した大横綱の 奉納土俵入り なんかも みつかった。 

ジョーはスマホから PCに飛ばし ダウン・ロードしまくった。

 

 

「 では ―  どんどん流してゆきます〜〜〜 」

モニターの前に 博士 と フランソワーズが陣取り

ジョーは 少し離れてキーボードを操作する。

 

「 これ すごい古いけど ・・・ うわあ〜〜〜 

「 ・・・ おお〜〜  これは 昭和の大横綱 ではないかな 

「 すご ・・・ 」

三人は 最初あれこれ言っていたが ― 次第に静かになってゆく。

皆 食い入るように画面を見つめている。

 

「 うそ・・・ 二番のドゥミ・プリエから こんなに脚 あがる??? 

 このヒト ・・・ 肥満体なのにきっちりアンディオールができてる! 」

「 すご ・・い  どのリキシもアンデイオール 完璧だわ!

 ねえ このリキシ、きっとね最高のダンサーになれたかも〜〜 」 

フランソワーズは 大きな目をまじまじと見開き 張り付いている。

「 え バレエと似てるの??  え〜〜〜 スモウがあ? 

 だってさ  究極の体格差 じゃね?  」

「 体重とかじゃなくて。 股関節と筋肉よ。

 ・・・ これは 同じね。  たぶん同じ訓練をしてきたのよ 」

「 え〜〜〜〜〜〜   ダンサーとリキシがあ?? 」

 

       ・・・ ウソ ・・・・

       だって だって おすも〜さんが バーで

       プリエ〜〜 とか するわけ???

 

       え それとも フランたちのレッスンに

       どすこいっ!! とか いって組合うわけ???

 

「 ほう〜〜  なるほどなあ ・・・ 

 クラシック・バレエの基礎、股関節のアンディオール は

 力士の 股割り と同じことなのだね 」

「 まあ 博士〜〜 すぐにお判りになったのですか 」

「 解剖学的な観点で見ると な。

 卓越した肉体を使うパフォーマンスには 共通項があるものだ。」

「 へ え〜〜〜〜〜  」

「 ああ ・・・ だから あの横綱さんは ア・ラ・セゴンドでの

 グラン・バットマンがたっか〜〜いのですね?

 軸脚、びくともしてませんし 」

「 そういうことだな 」

「 すご〜〜いわあ〜〜〜 

「 ?? わかんないんだけど〜〜〜〜 」

ジョーが 一人で ?? を飛ばしまくっている。

「 あ〜 ごめんなさいね  あのね ほら・・・

 さっき 大横綱の奉納土俵入り  が あったでしょう? 」

「 うん! あれって 明治神宮だね〜〜 

「 まあ そうなの? 林の中みたいに見えたけど ・・・

 そこで よいしょっ!! って やってたでしょ? 」

「 うん。 だ〜〜〜〜ん って脚 あげて 」

「 そ。 あのワザは  ほら これと同じよ 」

 

    ひょい  す −−−−  ばっ !

 

フランソワーズは ソファから立ち上がると 

姿勢を正し ―  ひょい ・・・っと右脚を耳の横まで上げた。

そのまま ・・・ 脚は空中に静止していて 彼女は笑顔。

 

「 ・・・ ひえ〜〜〜〜〜  すご ・・・ 」

「 すごくないのよ レッスンを始めたチビのころからやってるから ・・・

 多分ね〜〜 リキシのヒトたちも 同じよ 

「 え ・・・ なんてことなく 上げてるってわけ?

 だってさ〜〜 皆 100キロ以上 あるんだよ?? 」

「 体重はあまり関係ないのよ、筋肉が鍛えてあれば ね 」

「 へ〜〜〜〜〜〜  すげ〜な〜〜〜〜

  !! あ そうだ〜〜  そうだ!!

      ね   これ !! 

 ねえ ぼくよくわかんないから  全部 持ってきたよ  」

 

     ガサゴソ ・・・・

 

ジョーは ソファの横に置いていた パンフ・チラシの山を持ってきた。

「 え  なあに ・・・?   

 ○○ダンス・ワークショップ?   バレエ・スタジオ 生徒募集?

 ・・・ え  これ 全部ダンス関係のパンフレット? 」

「 ウン  モトマチにあるダンス・ショップでみつけて・・・ 

 フランが欲しい情報かどうかわかなくて とりあえず全部持ってきた 

 関係ないのも多いかも ・・・ でも なにかあると思うんだ 」

「 ・・・ ジョー〜〜 ありがとう!! 」

「 けっこう大きなダンス・ショップでさ〜〜〜

 いろんなヒト、いたよ?  今度 一緒に行ってみようよ 」

「 ・・・ ありがとう〜〜 ジョー〜〜〜 

「 あのさ。  こんなパンフ とか言ってくれたら

 ぼく 探してくるから! 

「 ・・・ ありがとう   う 嬉しいわ ・・・ 」

「 フランソワーズや  コズミ君のとこの学生さん達にも

 女子学生が混じっているから 聞いてみよう 」

「 博士  ありがとうございます〜〜〜 」

「 最近は この国でもオープン・クラス というのが多いそうじゃよ。

 ジョー  場所とか相談にのってやっておくれ 

「 はい!!!  フラン〜〜 どんどん聞いてね 」

「 ありがとう ・・・ !  

 わたし できれば ―  どこかバレエ・カンパニーでレッスンしたいの 」

「 ばれえ・かんぱにー? 」

「 あ 二ホンでは  バレエ団 とか バレエ・スタジオ とか言うみたい 」

「 そっか!  じゃ  それを探そうよ 」

「 ・・・ 嬉しい・・・わ  あ でもね 自分でもできるから

 ジョーには 地理的なこと、教えて欲しいの 

「 おっけ〜〜 任せて! 」

「 ありがとう〜〜  ああ なんだか嬉しいことばっかり♪

 楽し過ぎてちょっと怖いくらいよ 

「 え〜〜 そんなコトないって〜〜  」

「 そうじゃよ  フランソワーズ ずっとそういう笑顔がみたいよ 」

「 ・・・ はい ・・・ 

 ああ でもこの幸せ気分 皆で分けたいわ 

「 あ。  いいこと 思い付いたよ!  」

「 なあに? 」

「 あのさ  今度さ コズミ先生をお招きして 

  ちゃんこなべ やろうよ?

 この集めた録画みて いろいろ・・・解説、お願いして さ  」

「 わあ それ いいわね〜〜〜 

 今度はウチでオイシイ ちゃんこなべ しましょう! 」

 

 

 ―  数日後。 ギルモア邸のリビングでは 

 ( 一般的には ) 季節外れの 鍋・パーティ が催された。

 

「 あは な〜んか ちゃんこなべ っていうより

 なんでもオイシイモノ鍋 になっちゃったかなあ〜〜 

ジョーは 鍋奉行 を 買って出たが ちょいと情けない顔だ。

「 いやいや ジョー君〜〜  たいそう美味ですよ 」

コズミ博士は いつも温厚な笑顔だ。

「 うむ うむ これはウマイな〜〜〜 

 ワシは どうやら豆腐にハマってしまったらしいぞ 」

「 あら 博士もですか? わたしも〜〜〜〜♪

 お豆腐って カロリーは低いし美味しいし 最高〜〜 」

 

       えへ ・・・・

       よかったぁ 〜〜〜〜

 

       ・・・ 皆 優しいなあ 〜

 

割烹着に三角巾姿のジョーは こっそり袖で目尻を拭っていた。

 

 ―   そして スモウの録画ががんがん流れ

コズミ師匠の解説に 皆 耳を傾けた。

 

「 日本人はね よく 人生を相撲にたとえたりしていました。 

 まあ 我々くらいな年寄だけでしょうが ね 」

「 え ・・・? 人生を? 」

「 はいな。  人生は 足が徳俵に掛かってから といいますからなあ 」

「 ???  とくだわら??? 」

「 ああ これは相撲の世界の用語でね 

 徳俵 とは土俵の ちょっと飛び出た部分なのですが ・・・

 背水の陣 から が〜〜〜〜〜〜っと盛り返す というたとえですな。

 絶対絶命 でも 徳俵に掛かった脚を軸に反転攻勢にでる  とね 」

「 絶体絶命 ・・・?  

 ・・・ あ  なんか わかる気がします 」

 

    もうダメだって感じたら ―  床をしっかり踏む!

 

これはチビの頃から レッスンで言われていた言葉だ。

バランスが崩れそうな時  グラン・フェッテが落ちそうな時

 

  ぐ・・・っと一足 床を踏む。  不思議と体勢を挽回できる。

冷静になるってことかもしれない。

 

「 ほう?  似たような経験がありますかな 」

「 はい  格闘技 じゃないですけど ― わたし達も

 自分自身と闘って ― 踊ってますから 」

「 なあるほど ・・・ さすがですなあ 

「 いえいえ  」

「 足の裏にですね 徳俵を感じたとき とは 実は絶体絶命なのですが

 ぐ・・・っと堪えて そこを足掛かりにするのですよ 

 そして 反転・攻勢に ダッシュ! ですな 」

「  ― はい。  わかります  

 あ わたし リキシじゃないし とくだわら も見たこと、ないですけど 」

「 いやいや  なにごとも死に物狂いになれば 真実は共通 かも

 しれませんなあ 」

「 真実は  共通 ・・・ 

 あのう コズミ先生も ・・・? お仕事とかで 」

「 はいな 我々はアタマの中で 闘っています。

 時に 絶対絶命 というか 完全に行き詰まった時 ―  そこから

 踏ん張って やり直しますよ 

「 ・・・ あ〜〜  なるほど ・・・ 」

 

      そう  よ ・・・ !

 

      いま わたし。 

      徳俵を足掛かりに ダッシュ! だわ。

 

      ええ また 踊るの。    踊るのよ!

 

「  ― 徳俵 かあ ・・・  ふうん ・・・ 」

ジョーは びどく感心した気分で 録画の土俵をしげしげと見つめる。

「 あ ・・・ あそこが 徳俵 かあ 〜〜 

 あそこに追い詰められてから ―  反撃! するのかあ ・・・ 」

彼は 思わず自分の足元を見た。

床の上に スリッパをはいた足がある だけ。

 

      ―  けど。

 

      そうさ ぼくだって徳俵のトコまで

      追い詰められたじゃん

      

      ・・・  そんでもって ・・・

 

      

   ぼくは ― なにに向かって ダッシュ するのかな ―

 

      あ。 うん。  フランの笑顔 だね!

 

 

   そう   皆 目指すその一点 があるんだよ    ジョー君♪ 

 

 

 

               *******  おまけ   *******

 

 

数日後  晩ご飯の後 まったりしていると。

ジョー が ボード・ゲーム みたいなモノを持ち出してきた。

「 ね!  勝負しよ! 

「 え なあに? ゲーム ? 」

「 ウン  ぼくが作ったんだけどさ〜〜 」

「 え 〜〜 ?  あ  かわいい〜〜〜〜 きゃあ

 ねえ ねえ どうやるの? 」

「 あのさ  こうやって ・・・ 

 

   トントントン     トコトコトン −−−−

 

ジョーは その昔 神父様が作ってくれたのを思い出し 

紙スモウ を作ったのだ。

「 きゃ〜〜 ちゃんと取り組み だわああ〜〜〜 

 ちっちゃなリキシ〜〜〜  」

「 ね 楽しいだろ?  」

「 すご〜〜 い〜〜〜   あ  土俵、描くわね〜〜 いい? 」

「 うん 頼む 〜  ぼく、もっとリキシ、作ろうっと 」

 

フランソワーズが お菓子の箱の裏に描いた土俵には 

                    ちゃ〜んと 徳俵 が存在していた。

 

 

             人生は 徳俵に足が掛かった時からが 勝負! 

 

 

*****************************      Fin.       ************************

Last updated : 06.13.2023.            back     /     index

 

**************   ひと言   **************

徳俵云々〜 は チビの頃、相撲ファンだった祖母が教えてくれた言葉。

今 しみじみ〜〜〜 噛み締めています。  ああ あの時も この時も

わたくしは 徳俵を足の裏に感じていましたっけ ・・・ (-_-)